白十字のおすすめ
「もう一度下着をはきたいという想いをカタチに・・・」をテーマに開発されたパッド専用ホルダーです。
特にトイレ誘導時やパッドの立位交換に最適なので、介護予防の観点からも有効といえます。
上岡 洋晴
博士(身体教育学)
東京農業大学
大学院環境共生学専攻 教授
平成9年12月から日本で始めて開催された東京厚生年金病院での「転倒予防教室」の運動指導士や介護予防教室、特別養護老人ホームやデイサービスでのレクリエーション指導などに携わってきました。そうした現場での経験や転倒予防に関する国内外の研究の成果を踏まえて作ったのが、この「転倒予防のための運動実践レシピ」です。転倒回避能力の中でも、つまずいたり、すべったときの、いわゆる「とっさの一歩(ステッピング動作:前後左右への移動動作)」に焦点を当てています。
また、単に転倒予防のための運動という側面だけではなく、瞬時判断や瞬時記憶など、人にとって最も大事な「脳の高次機能への働きかけ」になるものを集めています。楽しく運動しながら認知機能への働きかけも同時に行えるという工夫がなされています。
ところで、転倒予防のための運動を考えると、筋力トレーニングを真っ先に思い浮かべる方が多いことでしょう。確かに筋力を維持することは大切ですが、筋力は出力の大きさや速さが増すことであり、目的に応じてからだ全体の筋肉を上手に順序正しく動かす命令を下すのは脳なのです。具体的に述べると、目・耳・皮膚・筋肉など受容器からの情報(からだの傾きや転びそうな状態)をもとに、脳が瞬時に判断してどのように対処するかの決定を下します。その速さと正確さ、適切さが重要であり、最適な命令が神経を介し、筋肉などの効果器に伝わって合目的な動作(とっさの一歩)ができるのです。これが広い意味でのバランス能力です。バランス能力を維持することは、筋力を維持することと同じように重要です。このレシピは、バランス能力を高めることをねらいとしているのが特徴ともいえます。
転倒は、人的要因(内的要因)だけでも、運動不足に加え、病気や薬の服用などが指摘されています。転倒によって大腿骨の骨折が生じ、そのまま寝たきりになったり、あるいは再び転倒することへの恐怖感を増大させて、閉じこもりがちになったりします。したがって、転倒を防ぐことは、人生の質(QOL)を維持する上でとても大切なことです。
※参考文献:武藤芳照総監修:「高齢者の転倒予防」,武藤芳照長寿社会での転倒予防の社会的意義、コミュニティケア,日本看護協会出版会,東京,pp.4-8,2005
1) 上岡洋晴ら: 高齢者の転倒・転落事故に関する事例研究,東京大学大学院教育学研究科紀要,38:441-449,1999.
2) Greenspan SL, et al. Fall direction, bone mineral density, and function: risk factors for hip fracture in frail nursing home elderly, Am J Med, 104: 539-545,1998.
側方への転倒は、太もも(大腿骨近位部)の骨折を引き起こしやすく、手術を要し、とても治りが悪いことが知られています。また、そのまま認知症が生じてしまったり、立つことができなくなるなど、その後の日常生活にも大きなダメージを与えます。 転びそうになったとき、「有効なとっさの一歩(ステップ)」を踏み出せることが大事なのです。大人(高齢者)になると、横や後に歩いたり、足を踏み出す動作をする機会が減りますので、余計にできなくなっていることが考えられます。各種の運動あそびで、楽しく訓練をしましょう。
Rogers MW et al.: Lateral stabillity and falls in older people. Exercise and Sports Sciences Reviews 31: 182-198, 2003.
転倒予防の運動のポイントは右の3点です。本誌で紹介するそれぞれの運動あそびは、これを基盤として作ってありますが、立位でのバランス能力には個人差があるため、注意が必要です。「あえてバランスを崩すような動作をするから、訓練になる」わけですが、過度になると転倒するという「諸刃の剣」であることをよく理解してください。
立位が難しい方のために、座位でできるようにも工夫しています。参加者の能力に応じ、立位と座位を上手に組み合わせて全員参加型の楽しい運動あそびを行ってください。
1) Whipple RH: Improving balance in older adults: Identifying the significant training stimuli, Gait Disorders of Aging Falls and Therapeutic Strategies (Masdeu JC et al, eds), Lippincott-Raven, pp. 355-379, 1997.
2) 上岡洋晴,岡田真平:運動あそびの基本概念、転倒予防教室ー転倒予防への医学的対応(改訂第2版,武藤芳照ら編),日本医事新報社,東京, pp.142-149,2002.
3) 身体教育医学研究会(編):楽しい運動あそびで転倒予防(リーフレット,改訂第2版),身体教育医学研究所,東御市, 2005.
施設・事業所において、各種の研修(OJTなど)が行われていることでしょう。この運動レシピを取り入れていただき、主任やレクリエーション担当者の方が中心となって職員・社員同士で行ってみてください。
理屈抜きに楽しさを体感するとともに、いつの間にか仲間同士、笑顔で接していることに気づくはずです。また、高齢者ではなくても、こんな簡単な判断ができない、頭では分かっているけど、体が動かない自分も発見し、瞬時判断・瞬時動作が少しずつ低下していることにも気づくでしょう。
これらの研修を通じて、「楽しさの意義」「童心(あそび心)への回帰」「自然なコミュニケーション」「認知機能の重要性」を勉強することができます。和気あいあいとしながらも、質の高い良好なサービスの展開に繋がる研修になることを願っています。